物件を売却する場合の流れ
- 売却を行う際は、まず不動産エージェントへ連絡し、タイミングと価格を決定する
- 複数のオファーが届いた場合、単純に金額だけを見ず、条件とあわせて検討する
- 売却時にはFIRPTAという15%の源泉徴収があり、日本でも利益の申告が必要
- 売却よりリファイナンスによる資金調達が良い可能性もあるので、総合的に判断する
アメリカ不動産を購入する際には、物件探しやローン、クロージングなどさまざまな手続きがあります。一方、将来その物件を売却するときにも、一定の手順を踏んで進めていく必要があります。
基本的な流れは、購入時ほど複雑ではありません。長期的に住宅需要のあるエリアの物件を購入していれば、売却の意思表示をしてしばらくするとオファーが届きますので、後は条件交渉を行ったうえでクロージングする、という流れです。
ただし、日本居住者がアメリカ不動産を売却する場合には、日本の不動産売却とは異なる外国人オーナーならではの注意点もあります。
ここでは、アメリカ不動産を売却するときの具体的な流れと、事前に知っておきたいポイントについて解説します。
まずは不動産エージェントに相談
アメリカ不動産を売却しようと考えたら、最初に相談するのは不動産エージェントです。
購入時に担当してもらったエージェントに特段の不満がなければ、まずはそのエージェントへ「売却を検討している」と連絡すればよいでしょう。
その上で最初に検討するのが、いつ売りに出すかという「売却タイミング」です。
物件の入居者から退去する連絡があったタイミングであれば特に悩むこともありませんが、もしまだ入居者がいる場合には、そのままの状態で売却先を探すか、賃貸契約を更新せず退去を待って売却先を探すかという選択肢の中から判断することになります。
入居者がいる状態で売却しようと思えば、家賃収入を途切れさせずに売却手続きを進められる一方、買主は主に投資家に限られます。
退去を待った後に売却しようと思えば、自宅として購入したい層にも販売できるため、買主候補を広げられる可能性があります。
どちらが有利かは、現在の賃貸契約期間や家賃水準、市場環境などを踏まえて不動産エージェントと相談するとよいでしょう。
そうして次に検討するのが、いくらで売り出すかという「売出価格」です。
これは、買う時と同様市場価格を参考にして決定されます。自分自身でおおよその金額を把握したい場合には、ZillowやRedfinといった不動産情報サイトを参考にするのがお勧めです。
これらのサイトでは、自身が所有する物件の推定市場価格も表示されますので、不動産エージェントへ連絡する前の段階で目安となる売却価格を把握することもできます。
ただし、これはあくまで参考価格となるため、実際の売出価格は周辺物件の成約状況なども含めてエージェントと相談して決めるのがよいでしょう。
不動産エージェントは、周辺にある広さや築年数、間取り、立地などが似た物件について、最近いくらで成約しているのかという周辺の成約事例などをもとに、売出価格を提案してくれるはずです。
売出価格が決まったら、物件を市場に出す準備を進めます。物件状態の確認、必要に応じた修繕やクリーニング、写真撮影、MLSへの掲載、購入希望者の内覧対応など、基本的にはすべて不動産エージェントが行ってくれます。
金額と各種条件から総合的に判断
物件を市場へ出すと、購入希望者から「この条件で購入したい」というオファーが届きます。
条件に問題がなければそのまま受け入れることができますし、価格やクロージング日などを変更したい場合には、売主側から別の条件を提示する「カウンターオファー」を出すこともできます。
購入時に一度オファーのやり取りを経験していれば、基本的にはそれを売主側から見ることになるため、イメージしやすいはずです。
ここで覚えておきたいのが、複数のオファーが届いた場合に、単純に金額だけを見て選べばよいというわけではないことです。
たとえば、
「50万ドル・ローン購入・条件多数」というオファーと、
「49万ドル・現金購入・短期間でクロージング」というオファーがあったとします。
金額だけを見れば50万ドルの方が有利ですが、売主によっては49万ドルを選択します。
なぜなら、ローンを利用する買主の場合基本的に入金までの期間が長くなるうえに、ローンの本審査段階でキャンセルとなる可能性もあるからです。
ローンの本審査では、金融機関による物件評価が行われます。その結果「この物件の価値は47万ドル程度」と査定される可能性があります。この場合、金融機関は事前審査で提示した金額よりも融資可能額を引き下げる場合があります。
この際、買主が不足分を自己資金で用意できなければ、売主に値下げを求めたり、取引自体が成立しなくなったりする可能性もあるのです。
そのため売主としては、「いくらで売れるか」だけではなく、「その条件で本当にクロージングまで到達できるか」という視点を持つことも大切です。
そうしてオファーを選んだ後も、交渉が続くことはあります。これもまた購入時に経験しているであろう、インスペクションレポートに基づく修理要望や値引き依頼です。
こうした条件調整が終わり、ローン審査などの確認に問題がなければ、クロージング対応をして完了です。
なおクロージング対応は、買主がローンを利用するからと言って、必ずしもアメリカ大使館で署名しなければいけないとは限りません。売主側は借用証書など融資に関する重要な書類がないため、「オンライン公証」で済む場合もあります。
これはタイトル会社にもよりますので、売却手続きが始まったら早いタイミングで確認をしておきましょう。
売買価格の15%は一旦源泉徴収
日本居住者がアメリカ不動産を売却するとき、特に注意しておきたいのが「FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act)」です。
これは簡単に言うと、外国人が物件を売却する際、その金額の15%が源泉徴収されるという制度です。利益の15%ではなく、売買価格の15%となるため、それなりに大きな金額が源泉徴収されます。
たとえば、以下のようなケースがあったとします。
購入価格 50万ドル
売却価格 60万ドル
この場合、利益は10万ドルですが、源泉徴収額は60万ドルの15%で9万ドルです。売却時点でそれだけの金額が差し引かれるため、初めて売却する人にとっては驚きやすいポイントです。
ただし、FIRPTAの15%は最終的な税率ではありません。
FIRPTAによる源泉徴収は、外国人が納税せずそのまま音信不通になってしまわないよう、税金をあらかじめ確保しておく制度です。翌年の税務申告において、実際に納めるべき税額が源泉徴収額よりも低い場合、その差額の還付を請求し、受け取ることができます。
なお、実際に発生する税額がFIRPTAによる源泉徴収額より少なくなることが事前に分かっている場合には、事前申請により源泉徴収額の減額や免除を求められる場合もあります。
そのためCPA(米国公認会計士)へ相談するタイミングは、売却が終わってからではなく、売却を具体的に検討し始めた段階がおすすめです。
また日本居住者であれば、アメリカで税金を支払えば手続きがすべて終わるわけではありません。
日本の居住者は原則として国外で発生した所得についても日本で課税対象となるため、アメリカ不動産を売却して得た利益については日本でも忘れずに申告をしましょう。
このあたりの具体的な実務対応については、前回の記事がそのまま参考になりますので、実際に売却するタイミングにおいてはぜひまたあわせてご確認ください。
リファイナンスという選択肢も比較する
ここまで売却の流れを説明してきましたが、実際に売却を決定する前に、もう一つ確認しておきたいことがあります。
それは、
「本当に物件を売却する必要があるのか」という点です。
不動産を売却する理由にはさまざまありますが、一般的には「物件価格が上昇したので利益を確定したい」「別の投資に使う現金を確保したい」といった理由が多いです。
もし目的がこのように「現金を手にすること」であれば、可能性として物件そのものを売却せずに資金を確保できる方法もあります。
それが、このガイドの第一章の記事でご紹介した「リファイナンス」です。
たとえば、10年前に木造中古の不動産を1億円(土地2000万円、建物8000万円)で購入し、現在2億円になっていたとします。
法人で購入し、4年ほどで減価償却を完了させていた場合、簿価は当初計上した土地代2000万円です。これを2億円で売却した場合、日本で計上する売却益は1億8000万円になります。法人税としてこの約30%にあたる5400万円は、売却して得た現金から支払わなければいけません。
これに加えて、FIRPTAの対象となるため、アメリカ側では売却時に3000万円(15%)が源泉徴収されます。このうちある程度は翌年還付されますが、売却により急いで現金を確保したい場合、その金額としてカウントすることはできなくなります。
一方で、2億円の物件に対して50%のローンを組むことができれば、物件を手放さずに1億円程度の資金を確保することもできます。借り入れた金額は所得として扱われず課税されないため、この場合は即座に全額を利用できます。
以上の比較では、結果的に急いで確保できる金額に、それほど大きな違いはないとも言えます。
売却よりリファイナンスの方が必ずしも得というわけではなく、あくまでもケースによります。ただそれは裏を返せば、売却せずリファイナンスにより資金調達した方が得なケースもあるということです。
そのため最終的な判断をする前には、
売却した場合の想定売却価格と諸費用について不動産エージェントへ確認し、
売却した場合のアメリカと日本での税負担についてCPA・税理士へ確認し、
さらにはリファイナンスした場合の金額や金利条件をローンエージェントへ確認する
ことをお勧めします。
そうして「いくらで売れるか」という表面的な数字だけを見ず、「最終的にいくらの現金が残るのか」という観点から、売却とリファイナンスの2つを比較し最終的に判断することが大切です。
まとめ
アメリカ不動産を売却する場合の流れは、購入の流れを思い浮かべればそれほど難しいことはありません。
まず不動産エージェントへ連絡し、売却のタイミングと、その際の売出価格を決定します。これが決まれば、その他の実務対応は基本的にすべて任せる形で進んでいきます。
次にオファーが届いたら、それをそのまま受理するのか、カウンターオファーを出すのかといった条件の検討を行います。受理した後もインスペクションレポートを踏まえた交渉対応などを行ってもらい、すべて問題がクリアされればクロージングです。
購入時になかった注意点としては、売却時にはFIRPTAという15%の源泉徴収があるということです。翌年の申告で還付金を受け取ることもできますが、最大で1年程度のタイムラグが発生してしまう可能性があります。
売却時には売買利益に対する日本での課税も発生するため、FIRPTAの源泉徴収とあわせて手元に残る現金と、リファイナンスによって手元に残る現金を比較すると、より良い選択肢が見つかる可能性があります。
