アメリカ不動産はじめてガイド

第2章

購入時に相談する
事業者選びのポイント

現地に会社を作る場合の相談先

読了目安:分
税金
  • アメリカでの会社設立は、財務、法務、融資といった観点で総合的に判断した方がよい
  • 設立すると決めた後も、設立州と会社形態は基本方針として考えておく必要がある
  • 各専門家からは、他の専門家の領域に関する回答を期待しにくく、自身での検討となる
  • 複数の設立代行会社から相見積もりを取得しようとすれば、良い業者を見つけやすい

アメリカ不動産を購入する際、「現地にLLC(Limited Liability Company、合同会社)を作って、その会社で不動産を所有した方がよい」という話が出ることがあります。

実際、そうした方が良いケースも少なからずあります。そして、LLCを作るだけであればそれほど難しいものではなく、日本にいながら最短1日で作ることも可能です。

しかし、アメリカ不動産を購入する日本人にとって、本当に難しいのは設立手続きではありません。本当に作る必要があるのかという判断です。

今回は、誰に依頼をすればLLCが作れるのかという話とあわせて、その前段階として誰にどういった相談をすればよいのかという観点から、現地法人設立の流れを整理します。

LLCの設立判断で重要な3つの観点

日本居住者がアメリカ不動産を購入する場合、所有名義には主なものとして次のような選択肢があります。

1.個人名義で購入する
2.自身が所有する日本法人名義で購入する
3.自身が所有者となるLLCをアメリカで作り、LLC名義で購入する
4.自身が所有する日本法人の子会社としてLLCを作り、LLC名義で購入する

どれが最適かは、「アメリカではLLCが一般的だから」という理由だけでは決まりません。税務、法務、融資、相続、将来の売却などの観点から総合的に判断する必要があります。

この中で特に重要なのが、税務、法務、融資の3つです。

税務の観点から考えて、例えば日本法人の節税目的を念頭にアメリカ不動産を購入するのであれば、「日本法人名義で購入」が推奨されます。

しかしこの場合融資の観点で考えると、日本法人名義での購入は原則的にローンが利用できないため現金一括で支払いをする必要があり、レバレッジ効果を利用できず投資効率は落ちてしまいます。

逆に、ローンを利用したいから個人名義かLLC名義で購入したいとなった場合、投資効率は上がるものの減価償却による節税効果はそれほど期待できなくなります。

法務の観点では、「アセットプロテクション」というものがLLC名義で購入する主なメリットとして挙げられます。

アメリカでは訴訟リスクを意識する必要があります。この際、LLC名義で物件を所有していれば、万一物件に起因する訴訟で巨額の請求をされた場合でも、LLCを倒産させれば個人や日本法人の財産にまで累が及ぶことはありません。

このことから、事業や保有資産ごとに法人を分ける設計が行われることがあります。少し極端な話ですが、不動産を複数所有する場合に、5件持っていたらLLCを5社設立し、1社1件所有という形で物件ごとにLLCを分ける人もいます。これが、アセットプロテクションです。

少し考えるだけでも以上のように複数の観点があるため、「アメリカ不動産は減価償却が大きく取れて節税になる」などの一点だけを見て所有形態を決めてしまうのはあまりお勧めできません。

LLCの設立で必要な2つの検討事項

以上のような観点を踏まえたうえで「LLCを作る」と決めた場合でも、実際に設立する前にはさらに考えることがあります。

これには主なものとして、「どの州に設立するのか」「どういう会社形態にするのか」という2つが挙げられます。

アメリカでは州ごとに会社法や税制度、設立・維持コストが異なります。そのため、どの州に設立するかも明確な根拠を持って決めた方が、様々なシーンで得をすることができます。

会社設立で特に有名なのは「デラウェア州」です。ただし、ここは不動産投資のための法人設立場所としてはそれほど推奨できません。

デラウェア州が多くの企業から選ばれてきた大きな理由の一つは、企業法務について豊富な判例の蓄積があり、法的な予測可能性が高いことです。そのため外部投資家から大規模な資金調達を行う企業や、将来の上場を目指す企業にとって、デラウェアには大きなメリットがあります。

スモールビジネスの設立先としては、「ネバダ州」や「ワイオミング州」もよく名前が挙がります。ネバダ州もワイオミング州も、州の法人税がありません(連邦政府の法人税はあります)。そのため、他の州と比べて税金の支払い額を最小限に抑えることができます。

その上で、ネバダ州は匿名性が高く、税務署・銀行・裁判所・捜査機関など一部の権限を持った人以外は会社の所有者が誰か調べられないこと、

ワイオミング州は設立・維持コストが比較的低く、2026年現在、設立申請費用は100ドルで年間最低維持費は60ドルしかかからないことなどの特色がそれぞれにあります。

ダラスで物件を購入するだけであればテキサス州に設立することをお勧めしますが、長い目で見てその他の用途をLLCに持たせたい場合には、そういった様々な観点を踏まえて設立する州を決定すべきという考え方もあります。

検討すべき事項の2つ目は、「どういう会社形態にするか」です。

例えば、「誰に意思決定権を持たせるのか」ということがこれに該当します。

意思決定については、オーナーと経営者を分けるか、オーナーと経営者を同じにするかという選択肢があります。これは法的書類として州に提出する必要のある項目です。

ここでも管理会社へ物件管理を任せるように、経営者を雇い会社の法的対応などの管理を一任する方法もあります。この場合、銀行口座開設とその電話対応、米国公認会計士(CPA)との対応などもすべて任せることができます。もちろん、任せる人物には相応の信用が求められます。

それ以外にも、会社の定款(Operating Agreement)では「経営者の持つ権限」や「オーナーが死亡した場合の扱い」などについて定めることができ、こういった一つ一つの項目について細かく設定しておくことで予期せぬ事態の発生を防ぐことができます。

専門家からは横断的な回答を得られにくい

以上の内容に関して、各専門家へ相談する際には注意が必要です。

税務面はCPA、法務面は米国弁護士、融資面はローンエージェントというように、各専門家へ相談すればそれぞれの領域においては詳しい解説をしてくれます。しかし、それぞれの専門領域を超えた話については、知っていてもあまり教えてくれない可能性が高いのです。

これは、アメリカの商習慣によるところが大きいと言えます。

日本でも、「独占業務」という概念はあります。これは士業(弁護士、税理士、公認会計士など)が持つ、特定の資格を持つ人だけが行える業務のことです。例えば何の資格も持たない人間が、業務の中で他の人の税務相談に乗ることは、法律によって禁止されています。

この意識が、アメリカでは如実に現れます。前述のとおりアメリカでは訴訟リスクを意識する必要があり、軽い気持ちでローンエージェントが税務的な質問に答えてしまった場合、ライセンス規制に抵触する可能性があるからです。

そのため現地に住む専門家ほど、自身が権利を持たない独占業務の領域に関する発言には日本よりずっと神経質になり、発言自体を慎むようになります。

結果として、最終的な判断はもちろんのこと、横断的な目線での検討自体もまたすべて自分自身で行わなければいけないというのが一般的なのです。

設計が固まったら設立代行会社へ

ここまで決まったら、ようやく実際の会社設立です。

設立する州、会社形態といった基本方針が決まっていれば、申請作業は設立代行会社へ依頼するだけです。設立代行会社はネットで検索すれば複数見つけることができますので、基本方針に沿ったLLCの設立にはいくらかかるのか、相見積もりを取得しましょう。

なお、見積もり金額の内訳を確認するうえで、押さえておきたい基本知識を3つご紹介します。

1つ目は、「Registered Agent(登録代理人)費用」です。

アメリカでは、法的通知などを受け取る窓口として、「設立州の在住者」を会社として必ず指名しておく必要があります。その対応をしてくれる人へ支払う毎年の費用がRegistered Agent費用であり、日本居住者の方であれば基本的に全員必要な費用となります。

2つ目は、「バーチャルオフィス費用」です。

LLCの登記住所は、実は日本の住所でも問題ありません。しかし、郵便物を確認し迅速に対応する必要がある場合には、郵便物を受け取る住所としてバーチャルオフィスがあると便利です。

必要性は物件購入の体制によって変わります。事業者によっては「必要なもの」として無条件に見積もりへ含めるところもあるため、少なくとも法律上必ず求められるものではないという知識は役立つ可能性があります。

3つ目は、「EIN(Employer Identification Number、アメリカの納税者番号)取得費用」です。

この番号の取得は、会社設立後、別対応として申請をする必要があります。ローン申請や物件購入には基本的に必須の番号となりますので、LLCの設立だけでなく、EIN取得がサービスに含まれているかは必ず確認しましょう。

以上、トータルでの費用相場は、初年度でおおよそ2,000ドル程度です。

この相場は、あくまでも基本方針をすべて自分で考えていた場合であり、その設計に関するコンサルティングも含めるともう少し高額になることはあります。そのあたりの切り分けをしているかは設立代行会社によっても異なりますので、各社へご確認ください。

おおよその観点としては、以下の3つでそれぞれ整理すれば、比較しやすいはずです。

1.州政府へ実際に支払う費用はいくらか
2.代行会社への報酬はいくらか
3.翌年から毎年かかる費用はいくらか

アメリカでの会社設立はそれほど難しいものではありませんが、事業者によっては情報格差を利用して割高な金額設定をしているところも少なくありません。

相見積もりをしている旨を伝えれば大幅な値引きをしてくれるケースもありますので、ぜひ複数の事業者に問い合わせをしてみてください。

まとめ

アメリカでLLCを設立すること自体は、それほど難しいことではありません。しかし本当に重要なのは、その前です。

主な観点としては財務、法務、融資の3つがあり、そのどれか1つだけで考えるのではなく、総合的にLLC設立のメリットデメリットを考えることが推奨されます。

LLCを設立すると決めた後も、どこの州に設立するか、どういう会社形態にするかといった基本方針については、実際の設立に向けて考えておく必要があります。

CPAや弁護士といった各専門家へ相談することはできますが、各専門家は他の専門家の領域に関する話はしてくれない可能性が高いため、以上の検討は基本的に自分自身で行わなければいけません。

基本方針が決まった後は、設立代行会社へ依頼します。この時、複数の会社から相見積もりを取得することで、割高な会社を避けやすくすることができます。

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