仕組みが保証するリスクコントロール
- 不動産価格が暴落した際に万一返済できず手放しても、債務が一切残らない契約がある
- 不動産の売買には州公認の第三者機関が間に入るため、詐欺行為は防ぐことができる
- 物件価格は公開情報となっているため、割高な価格を提示されてもすぐに気づける
- 災害や訴訟などに対する各種保険もあり、一通りの大きなリスクはほぼ0にできる
アメリカ不動産への投資を検討するとき、多くの人が最初に不安を感じるのは、物件そのものよりも「海外であること」ではないでしょうか。
言葉や商習慣が違うため、業者に騙されても分からないのではないか。現地の相場が分からず、割高な価格で買ってしまうのではないか。災害や訴訟が起きたら、予想外の損失を負ってしまうのではないか。
これらは、いずれも多くの方が抱かれる心配です。アメリカ不動産も投資である以上、価格下落、修繕、災害といったリスクが完全に0というわけではありません。
一方、アメリカの不動産市場には、問題が起きた場合の損失を限定し、万一の場合でも事前に確認した金額にまで損失を留める仕組みがあります。
今回の記事では、その代表的な仕組みをご紹介します。
返済不能時の損失を限定するノンリコースローン
不動産投資でローンを利用する場合、金利や毎月の返済額だけでなく、「万一返済できなくなった場合にどこまで責任を負うのか」は確認する必要があります。
一般に、担保物件を手放しても借金が残る融資をリコースローン、借金が残らない融資をノンリコースローンと呼びます。
例えば、ローン残高が4,000万円の時点で返済不能となり、担保物件を差し押さえられたとします。
この際、物件が2,000万円でしか売却できなかった場合、リコースローンであれば売却後も差額の2,000万円について返済義務が残り、他の個人資産にまで責任が及ぶ可能性があります。
日本の銀行は、基本的にこのタイプのローンを採用しています。かつての不動産バブル崩壊時、多くの人が多額の借金を背負いましたが、あれらはすべてこのリコースローンだったためです。

一方で、ノンリコースローンであれば、原則として担保物件の回収によって清算がすべて完了します。つまりローン残高が4,000万円の時点で、差し押さえられた担保物件が2,000万円の価値しかなかったとしても、返済義務は残らないということです。
アメリカの不動産ローンは、基本的にこのタイプを採用しています。
つまり、万一返済不能になるという事態が起きた場合でも、その損失を最初に支払った頭金の額に留める仕組みがあるということです。これは、アメリカでの不動産投資におけるリスクコントロールで最も大きな特徴の一つです。
なお、だからと言って必ずしも日本のローンが悪いという単純な比較ではありません。日本では金融機関から得た与信を利用し、例えばフルローンのように、少ない自己資金で物件を取得できる場合があります。
一方アメリカ不動産は、既存の借入状況は基本的に考慮せず、相応の頭金があることのみを重視します。そのため、まとまった額の自己資金は必須になります。
両者は一長一短があり、必ずしも競合せず、並行して共に活用することも十分選択肢に入ります。ただ「リスクコントロール」という点において見れば、アメリカのノンリコースローンの方が、万一の場合における損失額を限定できる特性が強いと言えます。
第三者が取引を確認し、保証する
海外不動産に対する二つ目の不安は、「騙されそう」というものです。イメージとしては地面師のように、購入代金を支払ったのに、所有権が自分に移らなかったといったものです。
アメリカでは、このような詐欺を防ぐための、日本にない「エスクロー」という仕組みがあります。これは、日本のような直接取引ではなく、間にエスクロー会社(州によってはタイトル会社と呼ぶ)という州公認の第三者機関が不動産取引では入るものです。
エスクロー会社は、売主が物件を売却する権利を持っているか、未返済のローン、税金の滞納、先取特権、第三者の権利などが残っていないかを調査します。
さらに、調査では発見できなかった権利上の欠陥による損失に備え、保険を付ける取引も一般的です。この保険は、取引内容において虚偽があった場合に生じる損失から、買主や金融機関を守るためのものです。
アメリカでも物件所有者になりすます詐欺はありますが、万一そのような相手に購入金額を振り込んでしまったとしても保険により損失は全額補填されるため、不動産エージェントのアドバイスに素直に従っていれば安全と言えます。

建物の瑕疵についても、「インスペクター」と呼ばれる専門家が、屋根、基礎、空調、給排水、電気設備などを調査し、写真付きのレポートを買主に提出します。欠陥が見つかれば、修繕、価格の再交渉、契約条件に応じた購入中止などを検討する材料になります。
また、利益相反を避ける形で買主側と売主側にそれぞれエージェントが付き、各当事者を支援する形が広く採用されています。同じ会社やエージェントが双方を担当することは、買主と売主による明確な同意がない限り、アメリカでは基本的に認められていません。
つまり、取引の安全性は一人の営業担当者を全面的に信用することで成り立っているのではなく、権利を確認する人、建物を確認する人、買主を支援する人、資金を管理する人が分かれ、それぞれが記録を残すことで、不正や見落としが起きないような仕組みとなっているのです。
物件価格は公開情報として確認できる
初めてアメリカ不動産を購入する人にとって、もう一つの大きな不安は相場です。
日本人には適正価格が分からず、現地価格より高く買わされるのではないか。このような不安は、多くの人が抱くものです。
このような不安を解消できるよう、アメリカではほぼすべての物件価格が、誰でも公開情報としてインターネットですぐ調べられるようになっています。
代表的なサイトが、ZillowとRedfinです。イメージとしては日本のSUUMOやHOME’Sのようなサイトですが、これらは単に売りに出ている物件を探せるだけでなく、売りに出ていない物件も含めて、その目安となる市場価格がほぼすべて公開されています。
https://www.zillow.com/
https://www.redfin.com/

実際の物件価格は、あくまでも当事者同士での合意で決まるため、ここに表示される市場価格を支払えば買えるという金額表示ではありません。あくまでも公開記録や、周辺物件などのデータから算出した推定値ではあります。
しかし、アメリカでは各物件の固定資産税額や評価額などが、自治体などの公的機関によって公開されています。
またアメリカでは同じエリアで、面積、築年数、間取りの近い住宅がまとまって建てられていることが多いこともあり、近隣で過去六か月以内に売買された類似物件の取引データを参考にした推定値は精度の高い市場価格であるという認識が共有されています。
そのため、もしも物件価格を提示された際、市場価格をこれらのサイトで調べてみてそこに大きな乖離があれば、相場よりも高い金額を提示されている可能性があると自分で簡単に気づくことができます。
もしそこで「こういう理由で市場価格より高い」と説明された場合でも、物件は市場に山ほど存在しています。納得できなければ、「市場価格と同程度の物件を購入したい」と希望すれば、上記のサイトから別の物件を探すこともまた容易です。
災害と訴訟といったリスクは保険でカバー
基本となる住宅保険や賃貸物件所有者向け保険では、火災、落雷、風、盗難、破壊行為、一定の水漏れ、建物内での事故に伴う賠償責任などが補償されますが、そこに含まれないケースも存在します。
例えば洪水です。米国の公的な洪水保険制度も、多くの一般的な住宅保険では洪水被害が補償されないと案内しています。そのため、洪水リスクのある地域では、洪水保険を別に検討する必要があります。
地震も同様です。一般的な住宅保険は原則として地震による損害を補償しないため、必要に応じて地震保険を検討することも求められます。
災害以外にも保険の対象となるリスクがあります。代表的なのは、訴訟リスクです。
例えば入居者が飼っている犬が第三者にケガをさせた場合、通常は犬の飼い主の責任が中心になります。しかし、物件の所有者が壊れたフェンスを放置していたなど、管理上の過失が事故に関係していれば、家主にも責任が追及される可能性があります。こうした予想外の請求に備えるため、物件保険の賠償責任補償や、必要に応じた追加の責任保険も入ることができます。
このように、保険を活用することでもまたリスクをコントロールすることができます。
ただし、保険があるからすべてのリスクはないという話ではありません。なぜなら、追加の保険へ入るためにはある程度のコストがかかり、その分だけ投資収益は低下してしまうからです。
そのため、実際には地域ごとにそのエリアに応じたリスクを特定し、必要な保険のみに加入していくことが重要と言えます。
例えばアメリカ不動産には、地域ごとに異なる自然災害リスクがあります。
カリフォルニア州では地震や山火事、
テキサス州の一部では強風、ひょう、ハリケーンや洪水、
寒冷地では凍結や水道管の破裂などが想定されます。
そのため、物件の購入時にはその住所にどのような災害リスクがあるかを確認することも重要です。これは不動産会社が基本的には把握していますので、そのリスクと適切な保険が何かを質問することで簡単に知ることができます。
まとめ
アメリカ不動産にも、価格下落、修繕、災害といったリスクはあります。しかし、それらのリスクをコントロールする仕組みもまた、存在しています。
ノンリコースローンの融資契約を利用し、エスクロー会社(タイトル会社)という州公認の第三者機関を介して実際の取引を行い、さらに各種保険を利用することによって、大きなリスクはほぼ0にすることができます。
また購入価格に関しても、公開情報を自分で調べることにより、市場価格と乖離した金額を支払ってしまうようなことはまず起こりません。
人を信じることだけに頼らず、契約、第三者、データ、保険を使ってリスクを管理する。その仕組みがアメリカという契約社会においては一通り揃えられているのです。
